不動産証券化とは?

不動産証券化は、土地や建物などの不動産等を裏付けとした証券を投資家に向けて発行する仕組みです。このプロセスを通じて、不動産所有者は資金調達の多様化や財務体質の改善、リスク分散が可能になります。また、投資家にとっては、少額から不動産に投資できる、投資先を分散できるといったメリットがあります。

1.不動産証券化の背景と意義

不動産の証券化が進展してきた背景としては、1990年代初頭のバブル経済崩壊から始まった地価の下落などを契機に、不動産に関するリスクが顕在化し、不動産の所有と経営を分離させたいという企業ニーズの高まりなどが挙げられます。また、投資対象としての不動産の魅力は保ちつつ、投資単位を小口化し 換金性を高めることで、より投資家が投資しやすくなります。

金融資本市場から不動産市場に流入する資金パイプが拡大することによって、より多くの投資資金がオフィスビル、住宅、商業施設、物流施設、ヘルスケア施設、インフラなどの社会資本整備に振り向けられることになります。社会資本の整備は、産業基盤の構築や企業の成長、住環境の拡充などのために不可欠なものであり、政府の財政負担に限界がある今日にあって、証券化のこうした機能の重要性はますます高まっているものと考えられます。

2. 不動産証券化の歴史と協会(ARES)の歩み

1930年代から抵当証券のような土地担保融資の債権流動化商品は存在しましたが、日本で不動産証券化について本格的な議論が開始されたのは、1990年前後になってからです。
米国で商業用不動産の証券化が急速に進み始めた時期であり、「金融の証券化」の流れの中で、企業の資金調達が銀行借入(間接金融)から株式や社債などの証券による資本市場調達(直接金融)に重点を移していった背景等を踏まえ、1990年に当協会の前身となる不動産シンジケーション協議会(CRES)が設立されました。

法制度面でも不動産証券化の支えとなる法整備が進み、1995年には不動産の小口化商品に関して「不動産特定共同事業法」が施行されました。

同法はバブル期に販売された不動産小口化商品がバブル崩壊後に事業者の経営破綻により元本割れするなど様々な問題を引き起こし、投資家が損失を被る例が相次いだため、事業者を規制する目的で制定されたものとなり、ここから不動産証券化市場の基盤整備が進み始めたということもできます。

90年代半ばになると、バブル崩壊の影響が深刻化し、不動産価格も大きく下落することとなりました。戦後長期間にわたって形成された土地神話(不動産価格は上昇し続けるという考え方)が崩壊し、企業では不動産の保有リスクを軽減するために、不要不急の不動産をオフバランス(売却などによりバランスシートから外すこと)して資産のスリム化・筋肉質化を図る動きが活発化しました。また、不動産投資ではキャピタルゲイン(不動産の値上がり益)だけでなく、インカムゲイン(不動産賃貸などによって得られる収益)を重視すべきだとする認識も普及しました。

こうした環境変化の中、1998年には日本初の総合的な資産証券化のための法律である「特定目的会社による特定資産の流動化に関する法律」(旧SPC法、2001年に改正され資産流動化法(SPC法)となる)が施行されました。企業や金融機関の資産のオフバランスや資金調達のニーズが膨らむ中で、これを契機として不動産や不動産担保付貸付債権を流動化するための証券化(資産流動化型証券化)が一層促進されることとなりました。

不動産の流動化が進む中で、2000年に「証券投資信託法」が「投資信託及び投資法人に関する法律(投信法)」に改正され、従来、主として有価証券とされていた投資信託の運用対象に新たに不動産等が加わったことによってJリート(不動産投資信託)が組成可能となり、2001 年 9 月 10 日に、日本ビルファンド投資法人、ジャパンリアルエステイト投資法人の2 銘柄が Jリート としては初めて、東京証券取引所に上場しました。

2002年12月には、前述の不動産シンジケーション協議会(CRES)が不動産証券化協会(ARES)に改組されました。当協会は、不動産証券化業務の適正かつ円滑な運営の確保と不動産証券化の普及推進を通じて、投資家の保護と不動産証券化商品市場の健全な発展を図り、不動産投資市場の拡大に寄与することを目的として、不動産会社、Jリートの運用会社、銀行・証券・商社・建設会社など証券化に関連するビジネスを展開する業種が幅広く集まる業界横断的な社団法人として設立されたものです。

不動産証券化市場の拡大につれて、投資家の裾野が広がり、市場関係者も増加したことから、市場の基盤整備に加え、各プレーヤーのガバナンスやコンプライアンスなどの内部管理態勢を一層充実させる必要性が高まりました。そこで、2007年9月に金融商品取引法が本格的に施行され、投資家保護の観点などから、不動産証券化商品にも他の金融商品とほぼ同様の規制が設けられました。

3.不動産証券化の仕組み

「不動産の証券化」とは、不動産等の原資産所有者(オリジネーター)が、キャッシュフローを生みだす特定の不動産等(原資産)を自身のバランスシートから切り離して、倒産隔離された特別目的事業媒体(Special Purpose Vehicle:SPV)に売却し、当該不動産から生まれるキャッシュフローを裏付けとした出資証券や組合出資持分、債券などの有価証券などを発行し、第三者の投資家に販売する仕組みです。

SPVは購入した原資産から得られるキャッシュフローを裏付けに証券を発行(借入れの場合もある)して投資家に購入してもらい、投資資金や投資後の証券や借入れの元利払いや配当などに充てます。ここで発行される証券が、不動産証券化商品です。
SPVが発行する証券には、デット(債券などの負債)やエクイティ(株式・出資などの資本)、その中間の性質を有するメザニン(英語で中二階の意味)などの形態があります。

不動産証券化の仕組みの図

4.不動産証券化の機能

不動産証券化には大きく分けて、①資金調達、②リスクコントロール、③流動性の付与 の3つの機能があります。オリジネーター、投資家、事業者などは、それぞれの立場からこうした機能を生かして、証券化を活用しています。

不動産証券化の機能
資金調達
  • 低コストでの資金調達
  • 売却後のビジネスチャンス捕捉の可能性
リスク・コントロール
  • リスクの移転、分散、加工など
流動性の付与
  • 証券化による小口化
  • 証券におけるリスク・リターン構成の加工など

①資金調達

不動産や不動産担保付ローンなどの所有者(オリジネーター)は、これらの資産を証券化する過程で、SPVに資産を売却することによって、売却資金を受け取ります。これによってオリジネーターは、不動産証券化を活用して資金調達をすることができます。

また、オリジネーターである企業の格付けが低かったり業績が低迷していたりするような場合、企業の信用力に基づいて資金調達をすると、高いコスト(金利、配当など)がかかりますが、良質な資産を切りだして証券化すれば、その資産の信用力に応じた調達コストとなるので、SPVを通じてより有利な資金調達ができる可能性があります。

証券化では、キャッシュフローを加工することによって、投資家のニーズに合った証券を発行することができるので、こうした特性も資産売却の際に活用することができます。

また、不動産等の所有者が、第三者への入札などで単純売却すると、その不動産等から派生するビジネスに関与する機会がなくなる場合が多いですが、証券化することによって、一定の範囲内ではありますが(会計的に継続的関与に該当しないと認められるなど)、SPVへの出資なども含めて関連ビジネスを捕捉する機会を残すこともできます。90年代後半は、企業がSPVを組成して本社を証券化し、そのビルをSPVからその企業自身が賃借するリースバックも広く活用されました。

②リスクコントロール

不動産証券化を活用することによって、リスクの移転・分散・加工といったリスクコントロールが可能となります。

不動産等の所有者は不動産等を保有することによって、収益や資産価値の変動、流動性の低下、災害による損失などのリスクを負担しています。しかし、不動産証券化によって所有機能をSPVに委ねることにより、SPVの投資家にリスクを「移転」することが可能となります。例えば、不動産ファンドを組成し、自らはその資産運用を担うアセットマネジャーに就任する場合、所有リスクはファンドの投資家が負担することになります。

また、複数の不動産や不動産担保付ローンを組み合わせてファンドを組成する場合のように、資産をプールして(プーリング、Pooling)、ポートフォリオを構築することで、投資リスクを「分散」することができます。例えば、同じポートフォリオ内のある不動産からの収益が低下しても、他の不動産からの収益が増えれば、ポートフォリオ全体の収益は安定化します。この分散効果は、SPVが発行する証券などを購入する投資家が享受することとなります。

③流動性の付与

実物不動産の流動性(換金のしやすさ)は、一般的に他の資産に比べて低いものと捉えられています。売買金額が高額になるケースが多く、買い手の発見、対象不動産のデューデリジェンス(詳細調査)、価格交渉、売買契約書の作成、移転登記といった一連のプロセスも必要となるためです。買い手が容易に見つからないこともあれば、買い手が決まってもその後の手続きにかなりの手間・時間を要することもあります。

しかし、証券化のプロセスを通じて、不動産のデューデリジェンスなどをした上で、投資単位を小口化したり、原資産とは異なるリスク・リターン構成に加工して証券を発行したりすることにより、投資家が投資しやすい形に変換することが可能となります。実物不動産を証券化することによって、不動産の流動性を高めることができるのです。特に、J-REIT(日本版不動産投資信託)のように、SPV(投資法人)の発行する証券(投資口)が証券取引所に上場されると、投資家は市場を通じていつでも証券の売買をすることができるようになり、流動性は飛躍的に向上します。

5.不動産証券化スキームのポイント

①倒産隔離の確保

証券化を成立させるスキーム上の重要な要件として、法務上、「倒産隔離」の確保が求められます。倒産隔離という概念は、証券化された不動産そのものに関わるリスク以外のリスクを投資家に負わせないための法的枠組みになり、主に以下2点の側面に留意する必要があります。

(ⅰ)証券化対象資産をオリジネーターの倒産の影響から法的に分離すること
仮にSPVへの資産(不動産)の移転後にオリジネーターが倒産した場合、オリジネーターの破産管財人や債権者が証券化した不動産を差し押さえるなど、投資家の利益に反する権利を行使するリスクを回避させる必要があります。具体的には、不動産の所有権がオリジネーターからSPVに確実に移転し、譲渡が法的に有効と認められる必要があります。
(ⅱ)証券化対象資産を保有するSPV自体の倒産リスクを極小化すること
SPV自体が倒産手続きに入らないようにする手立てをとることが必要となります。具体的には、SPVに不動産証券化以外の行為を禁止し、ビークルの取締役等が倒産申立てなどの投資家に対して不利になる権利を行使できないようにする必要があります。

②二重課税の回避

一般事業法人の株式に投資した場合、法人税引き後の利益(の一部)が配当として分配されますが、不動産の証券化では、不動産からの収益を直接的に投資家に分配することが重要となります。そのために、SPVが課税主体とならないような仕組み作りが求められます。これを(SPVの所得に対する課税と投資家の所得に対する課税の)二重課税の回避といいます。二重課税を回避する方法としては、以下2つの方法があります。

(ⅰ)組合や信託のように、それ自体がもともと非課税のSPVを用いること( パス ・スルー)
(ⅱ)特定目的会社や投資法人等のように、配当・分配ルール等の一定の要件を満たせば、投資家への配当金・分配金を損金算入することが認められているSPVを用いること(ペイ・スルー)

③会計上のオフバランス

会計上は、所有する不動産をSPVに譲渡して資金調達を行ったオリジネーターの財務上の扱いがどのようになるか、が重要です。この時の不動産譲渡が、会計上、売却取引と認められれば、不動産はオフバランスされますが、譲渡後もオリジネーターが実質的に不動産を所有・支配しているのと何ら変わりがない場合、会計上、売却取引と認められず、不動産を担保に資金調達したものとして扱われ、金融取引としての会計処理を求められます。このとき、SPVのオリジネーターからの倒産隔離性を担保している真正売買性の否認にもつながるので、注意が必要です。

④デットとエクイティ

デット(debt)は負債・債務を意味し、不動産投資では不動産総額における負債総額、もしくは社債の発行や金融機関からの借入等による資金調達部分を指します。これに対し、エクイティ(equity)は自己資本・株式持分を意味することから、不動産総額から負債総額を引いた、自己資本による持分、もしくは普通株式など出資証券発行や組合出資による資金調達部分を指します。

デットは利息の支払や元本の償還においてエクイティに優先し、一方、エクイティは収益配分や清算手続きにおいてデットに劣後するかわりに、デットへの元本償還後の残余財産の全てを手に入れることができます。これを「優先劣後構造」といいます。
デットもエクイティも、さらに複数の優先劣後構造に分けられることがあります。

⑤レバレッジ効果

レバレッジ(leverage:てこ)効果とは、外部の低利な資金を借入または社債発行で取り入れることにより、エクイティ投資家の出資分に対する利回りが上昇することをいいます。通常、借入金利や社債のクーポンは実物不動産の利回りより低いため、エクイティの利回りは、自己資金100%で実物不動産に直接投資した場合より高くなります。エクイティ利回りは、デットの割合〔これを借入比率(LTV:Loan to Value)といいます。〕の大小と、実物不動産の利回りと借入金利の差(これをイールド・ギャップといいます。)の大きさにより変わってきますが、借入比率が高いほど、またイールド・ギャップが大きいほど高くなります。

ただし、借入比率が高くなれば、不動産収入の減少や金利の上昇(変動金利で借り入れた場合)で資金ショートするリスクも大きくなります。また、レバレッジ効果を、投資期間終了時の売却損益ベースでみると、不動産価格が下落した場合には、エクイティ利回りの低下幅も大きくなります。

レバレッジ効果

低金利の資金を借り入れることで、エクイティ出資分に対する利回りが上昇する(てこの作用になぞらえ、レバレッジ効果という)。

(例)100億円の不動産の年間収益を5億円とする

  1. 自己資金100%の場合
    5億円÷100億円=5%(投資利回り)
  2. 利2%で50億円借り入れた場合
    50億円×2%=1億円(支払金利)
    5億円-1億円=4億円(利払い後の年間収益)

よって、インカムベースのエクイティ利回りは
4億円÷50億円=8%>5%
自己資金100%で投資するよりも利回りは高くなる。

レバレッジ効果の図

⑥ノンリコースローン

ノンリコースローンとは、資金の貸し手(債権者)の求償権が担保不動産にしか及ばないローンで、責任財産限定型ローンということもあります。従来の不動産向け貸付は、企業の信用力や個人保証を基に、担保以外の資産にまで求償権が及ぶリコースローンでしたが、ノンリコースローンでは債務不履行による貸付金の回収不足が生じても、債権者は債務者の他の資産から回収することはできません。

不動産証券化では、SPVへのいかなる投融資も当該不動産の収益のみを源泉とし、投資家が負うリスクも当該不動産のリスクに限られます。

⑦利益相反リスクの回避

利益相反(Conflict of Interest)とは、忠実義務を負う者が自己や第三者の利益を図り、投資家の利益を損なうことをいいます。第三者の投資家に収益を分配することを主な目的とする証券化の仕組みでは、オリジネーターや不動産管理・運用者と、投資家の利害が必ずしも一致しない場面があります。利益相反が疑われるのは、例えば、オリジネーターが証券化後も不動産の管理・運営を自動的に自分の子会社に委託するようなスキームです。このようなケースでは、より低廉で良質なサービスを提供する他の管理会社の参入機会を排除し、投資家に分配するキャッシュフローが過小になる可能性があります。あるいは、J-REITの運用会社が、建物維持管理会社の選任に当たり、正当な理由なしに、運用会社の株主である不動産会社やその子会社を優先したり、通常より高い報酬や有利な条件で契約したりすれば、投資家から利益相反が疑われる可能性があります。利益相反リスクは、証券化関係法令だけで完全に排除することは難しいため、証券化スキーム上の工夫や、実務上の運用の工夫により可能な限り回避する仕組みを構築することが必要になります。

⑧信用補完措置

不動産証券化では、投資家は負担するリスクに応じた収益を受け取る仕組みになっています。不動産事業においては、大口テナントの解約や建物・設備に関わる重大な事故などによるリスクが伴います。このリスクに対処できるように、スキームそのものの信用力を強化したり、流動性を補完したりする仕組みのことを信用補完措置といい、証券化組成時にあらかじめ組み込まれます。

具体的には、元利支払いの優先劣後構造のほか、現金確保(キャッシュコラテラル)、余剰金積立(キャッシュリザーブ)、銀行や損保会社などの第三者による保証、コミットメントラインの設定などがあります。

⑨信託利用とその意味

不動産証券化では、不動産そのものでなく、不動産を信託受益権化したものをSPVに譲渡することが多いですが、これは以下のような信託固有の特徴に注目したものです。

  1. 信託財産は、オリジネーターから隔離されていると同時に、信託財産自体が一つの法的主体を持つような形となっているため、信託銀行からも倒産隔離されている。
  2. 信託自体に法人課税されないため、導管体機能が確保されている。
  3. SPVが信託受益権を取得する場合、不動産取得税と所有権移転登記の登録免許税は課税されず、信託設定登記費用と信託報酬だけで済む。ただし、信託設定期間を通して信託報酬を払い続ける必要があるため、長期間ではトータルコストが実物不動産を取得した場合を上回る可能性もある。
  4. 実物不動産の証券化では、第三者に不動産の管理・処分業務を委託する必要があるが、信託銀行自らが管理・処分業務を行えるため、ストラクチャーを簡素化できる。
  5. 信託銀行には資金使途の管理機能があるため、投資家保護に適する。また、不動産の管理、運営及び処分に関して、高度なノウハウ及び経験が蓄積されている。

6.不動産証券化のスキームの分類

資産流動化型スキームと資産運用型スキーム

オリジネーターが資金調達を目的に、保有する不動産(もしくは不動産を信託受益権化したもの)をSPVに譲渡し、当該資産からのキャッシュフローを投資家に分配する仕組みを「資産流動化型(もしくは流動化型)スキーム」といいます。

一方、オリジネーターの資金調達という側面が強い流動化型スキームに対し、投資資金の運用という側面が強い証券化を「資産運用型(もしくはファンド型)スキーム」といい、流動化型と区別することがあります。これは、証券発行や出資によって投資家から集めた資金プール(ファンド)を裏付けに不動産投資を行い、その運用益を投資家に分配する仕組みで、REITや私募ファンドが該当します。

7.不動産証券化の代表的スキーム

以下、不動産証券化の代表的なスキームでは、それぞれ個別のスキームに適用される法律のほか、金融商品取引法などの適用にも留意して組成することが必要です。

(1)合同会社+匿名組合(GK-TK)

GK-TKではSPVとして、主に合同会社(GK、会社法)を利用します。株式会社(KK、会社法)を利用することもできますが、組織形態の簡便性から合同会社を用いるケースが多くなっています。実物不動産の小口化商品を規制する不動産特定共同事業法に抵触しないように、SPVは実物不動産ではなく不動産信託受益権に投資をします。購入資金のデットは金融機関からのノンリコースローンによる借入金、エクイティは匿名組合(TK、商法)への投資家の出資によって調達します。匿名組合を活用することにより、「パススルー型の導管性」を確保しています。

(2)特定目的会社(TMK)

TMKは資産流動化法に基づく不動産証券化の仕組みであり、SPVとして特定目的会社(TMK)を利用します。TMKはGK- TKとは異なり、実物不動産はもちろん、不動産信託受益権を含む財産権一般に投資できます。資金調達面でも、デットでは特定目的借入のほか、特定社債や転換社債の発行など、多様な手段を活用できます。また、エクイティでも、優先出資にさらに優先劣後関係をつけることにより、リスク許容度の異なる投資資金を調達することができます。TMKは法人税の課税対象となりますが、利益の配当の支払額が配当可能利益の90%超であるなどの一定の要件を満たす場合、TMKが支払う利益の配当の額は、課税所得の計算上、損金算入することが認められています(ペイ・スルー型の導管性)。

ただし、TMKは資産流動化法によって認められたSPVなので、この仕組みを使うときには、事前に資産流動化計画を所管財務局に提出するなどの手続きが必要となります。

(3) 投資法人(REIT)

投資法人とは、投信法に基づき、資産を主として投信法に定める特定資産への投資として運用することを目的として設立される社団であり、この投資法人をSPVとする不動産証券化の仕組みが日本版の不動産投資信託(REIT、Real Estate Investment Trust)です。投資法人は、その投資対象として、実物不動産や不動産信託受益権などへも投資でき、有価証券の保有も可能です。借入や投資法人債により、デットを調達することもできます。また、投資法人は法人税の課税対象となるものの、配当等の支払額が配当可能利益の90%超であるなどの一定の要件を満たす場合、投資法人が支払う利益の配当等については、課税所得の計算上、損金算入することが認められています(ペイ・スルー型の導管性)。

投資法人のうち主たる投資対象が不動産等である場合を不動産投資法人といい、東京証券取引所に上場しているJ-REITと、上場していない私募REITがあります。J-REITの特徴は、一般的な会社の株式に相当する投資口を発行し、その投資口を上場させてエクイティ資金を調達できることにあります。GK-TKやTMKが主に限定的な投資家からエクイティを調達するのに対して、J-REITは不特定多数の投資家から公募で資金調達をすることができます。このため、新規上場(IPO、Initial Public Offering)のときはもちろん、上場後に新たに投資口を発行して資金調達する増資(PO、Public Offering)のときも多額の資金を調達しやすくなります。投資家も証券取引所を通して、いつでも投資口の売買が可能となります。

ただし、J-REITは上場して個人を含む多くの投資家から資金を集めることができるため、投資家保護の観点から、設立時の許可、上場審査などに加え、運用開始後も内部管理態勢の整備、情報開示などの面で厳格な規制が課されています。

一方、上場していない私募REITの場合、投資家にとっては、投資口の流動性(換金性)という面ではJ-REITに劣後するものの、投資口価格(基準価額)が保有不動産の価値に基づいて評価され、J-REITのように上場市場での取引により頻繁に動くことがないので、安定した運用を期待できます。このため、近年は年金などを含めた機関投資家が、私募REITへの投資を選好するケースも増えてきており、同市場も拡大しています。

(4)不動産特定共同事業

1987年から不動産会社などが実物不動産の小口化商品を組成・販売する際に、組合や匿名組合などを組成して、投資家から出資を集めて不動産の購入・運営に携わる仕組みが利用されてきましたが、1990年代のバブル崩壊とともに経営基盤の脆弱な不動産会社などの倒産等によって、投資家に被害をもたらす事例が生じました。このため、1995年に不動産特定共同事業法が制定され、事業者となるためには一定の人的財産的要件を満たしたうえで許可を得ることが必要とされることとなりました。

これによって事業者の経営破綻リスクは減少したものの、倒産隔離はされていないことが課題とされていましたが、2013年にはSPVを用いた倒産隔離型の仕組みも認められるようになりました。また、2017年には小規模不動産やクラウドファンディングなどで活用できるような規制緩和も行われたことから、実物不動産の証券化の仕組みとして活用する事例が増加してきています。

  • 本稿は、不動産証券化に関する基本的な事項をまとめたものであり、実務上の解釈・適用については、弁護士、税理士、会計士の専門家などにご確認ください。
  • 不動産と金融分野にわたる幅広い実践的な専門知識を習得されたい方は、「不動産証券化協会認定マスターとは」をご参照ください。
  • 不動産証券化に関する基礎知識や最新の法制、税制、会計、市場動向等は、当協会が毎年発刊しております『不動産証券化ハンドブック』をご参照ください。