「ARES ESG AWARD 2023」
審査結果~受賞取組みの紹介~
「ARES ESG AWARD 2023」審査結果~受賞取組みの紹介~

2024年2月6日

グッドアクション賞(自薦)

ベストレコメンド賞(他薦)

審査員のコメント

2001年に登場したJリートは、不動産現物を直接保有するのではなく、上場された投資口への投資という形で、機関投資家に留まらず個人投資家による新たな不動産投資の道を開き、市場の拡大に大きな役割を果たしてきました。ESG投資の拡大に伴う非財務的な価値への関心の高まりはJリート業界にも波及し、その取組みを通じて日本の不動産の環境配慮やテナントの皆様の働きやすさがここ数年で急速に向上しており、今後もESG投資の先駆者として日本市場をけん引していかれることが期待されます。今般、ARES ESG アワードが開始されたのは、こうした期待に応えるものとしてまさに時宜を得た取組みだと思います。また、Jリート業界は、情報交換を通じて切磋琢磨する雰囲気が醸成されている点が特徴的です。そのため、本アワードの実施は業界のレベルアップに非常に貢献する取組みだと感じました。

「JリートのESG取組調査の結果概要」(下部PDFリンクご参照)からも分かるように、全体の印象としては皆様非常に意識の高い取組みを、限られたリソースの中で精一杯進めておられると感じました。特に環境分野の取組みは申し分ないレベルだと思います。今後は社会分野について従業員やテナントの満足度に留まらず、より広い視点で地域コミュニティや幅広いステークホルダーに社会的インパクトをどのように与えていけるか、といった取組みの検討を進めていただくと、さらに不動産価値の向上が期待できると思います。また、ガバナンス分野についても取り組むべき対象が広いため、投資家がJリートのガバナンスに対して何を重視するかをふまえて深掘りしていくと、さらにレベルアップすると感じました。

「ARES ESG AWARD 2023」を通して~制度設計・運用支援委託先 株式会社日本総合研究所より~

ARES ESGアワード(以下、本アワード)は、JリートのESGに関する取組みを外部発信するとともに、Jリート各銘柄が互いの取組みを参考とし、業界全体としての取組みレベルの底上げを図ることを目的に創設されました。このような趣旨を踏まえ、本アワードは多くのESGに関する表彰制度と異なり、エントリーされたそれぞれの取組みについて、「ユニーク性(取組みの独自性が高く、創意工夫がみられるか)」や「普遍性(他のJリートが参考にしやすい取組みとなっているか)」などの項目で審査するといった特徴のある表彰制度となっています。初回となる「ARES ESG AWARD 2023」では多くの応募をいただき、Jリート業界の一体感と、サステナビリティへの意識の高さを改めて感じることができました。今回受賞された取組みは、創意工夫に富んだものが選出されていますので、他のJリートの皆様もぜひ今後の取組みに活かしていただけると幸いです。

また、併せて実施したESG取組みの調査(下部PDFリンク「JリートのESG取組調査の結果概要」ご参照)では、多くのJリートが高いレベルでの取組みを実施しており、特に環境分野では、GHG排出量把握率や、GHG削減目標の設定率が90%を超えるなど、積極的な取組みが見られました。今後も環境分野を中心にESGに関する取組みについての社会からの要請はより一層高まると考えられるため、新しいトピックや取組みの難しい課題について、今後もJリート業界内で協力し取り組むことを期待しています。

JリートのESG取組調査の結果概要PDF

表彰式の様子

2024年1月29日に帝国ホテルにおいて開催しました「一般社団法人不動産証券化協会 2024年新年懇親会」にて、「ARES ESG AWARD 2023」の表彰式を行いました。
表彰式では、「ARES ESG アワード」創設の趣旨及び受賞取組みをご紹介するとともに、菰田会長より6投資法人の各運用会社に記念盾が授与されました。

  • グッドアクション賞 
    環境部門
    トーセイ・リート投資法人
  • グッドアクション賞 
    社会部門
    アドバンス・レジデンス
    投資法人
  • グッドアクション賞 
    ガバナンス部門
    日本プライムリアルティ
    投資法人
  • ベストレコメンド賞 
    環境部門
    オリックス不動産投資法人
  • ベストレコメンド賞 
    社会部門
    星野リゾート・リート
    投資法人
  • ベストレコメンド賞 
    ガバナンス部門
    大和ハウスリート投資法人

「ARES ESG AWARD 2023」
受賞取組みの紹介

環境部門
グッドアクション賞(自薦)
環境部門

トーセイ・リート投資法人

築古賃貸マンションの再生

トーセイ・リート投資法人では、築30年超の物件に対し、スクラップ&ビルドではなく適切な修繕や設備更新を行うことで長寿命化を図ることにより、収益性の向上と環境負荷の低減を目指しています。例えば練馬区の築31年が経過した賃貸マンションにおいて、大規模修繕工事実施(外壁タイル補修、シーリング打替え、外壁等塗装、共用廊下の床貼替)、節水型水栓の採用による環境への配慮、館銘板更新、植栽植替えによる意匠面の向上、宅配ボックス新設や温水便座付トイレ設置による利便性/快適性の向上に取り組んでいます。

各取組みは一般的なものや手軽に行えるものが多く、築年数が経過した物件であっても、このような取組みを地道に積み重ねることにより収益性を向上させながらESGへの貢献にも繋げています。
結果、DBJ Green Building認証で3つ星を取得するとともに、グリーン適格資産としてグリーンファイナンスによる資金調達を実施することが出来ました。

具体的な取組みの様子

審査員からの取組みに対するコメント

不動産分野におけるGHG排出量の削減においては、エンボディドカーボンの削減についても取組みが始まりました。このような中、既存の不動産の改修工事によってバリューアップと環境負荷低減を両立させるのはとても野心的な取組みです。また、節水型水栓への交換(環境)、館銘板や植栽の更新など植替え(意匠)、宅配ボックス新設や温水便座付トイレ設置(利便性/快適性)など、多面的な価値を追及する大規模修繕を施すことで築古物件の収益性を改善させる取組みは、Jリートが関与する環境意義をサーキュラーエコノミーに拡張するものであると同時に汎用性も高い取組みであると感じました。さらに、環境認証という明確な目標設定とその実現が素晴らしく、ぜひ他の投資法人にも参考としてほしい好事例です。

社会部門
グッドアクション賞(自薦)
社会部門

アドバンス・レジデンス投資法人

施工前提の『リノベーションデザイン』で学生向けのコンペを開催

アドバンス・レジデンス投資法人の運用会社である伊藤忠リート・マネジメント株式会社では、建築やデザインを学ぶ多くの学生に活動の場を提供し支援することや、学生が自社およびJリート業界に関心を持つきっかけとなることを目的に、運用する賃貸マンションのリノベーションアイディアを学生向けに募集・コンペを実施し、優秀作品のデザインをもとにしたリノベーションを実際に行いました。コンペ実績のある不動産会社へのヒアリング、審査委員長の選考、テーマ設定、各大学や専門サイトへの告知等、全て自社で実施しました。

本コンペでは、単なる学生からのアイデア募集ではなく、実際に施工することを前提とし開催され、ターゲットとする入居者像や目標賃料、概算工事費等を含む「事業計画」の作成も提案要素に加えた為、リアリティを求める複雑でユニークなコンペとなっています。
コロナ禍もあり2回の開催に留まってはいますが、結果として学生に向けた活動の場の提供にとどまらず、社員のリノベーション工事への固定観念に変化を促す効果や、新卒採用の観点からの学生との接触機会の拡大にも貢献しています。

第1回RESIDIA リノベーションデザイン賃貸住宅環境学生コンペ2014/2015
最優秀賞「時間(とき)のミルフィーユ」

審査員からの取組みに対するコメント

人口減少という環境下、有望な若手の育成と人材獲得はJリート業界においても、不動産業界全体においても切迫した課題として顕在化することが予想されます。本取組みは、運用する賃貸マンションのリノベーションに、建築やデザインを学ぶ学生を巻き込み、活躍の場を提供しながら、学習の機会提供としているユニークなものです。資産運用会社における優秀な人材獲得にもプラスの側面があると思いますが、それを超えて業界全体に対する若者の関心度を高める良いきっかけともなっており、人的資本育成の視点を事業に組み込んだ、社会面の価値訴求にも新たな視点を与える取組みと評価できます。

ガバナンス部門
グッドアクション賞(自薦)
ガバナンス部門

日本プライムリアルティ投資法人

経営の透明性を高めるための外部有識者の招聘

日本プライムリアルティ投資法人の資産運用会社である株式会社東京リアルティ・インベストメント・マネジメントでは、法令遵守と利益相反防止を最優先したうえで、投資主本位の公正性・透明性の高い経営に徹し、社会的責任と公益的使命を全うすることに責任をもって取り組んでいます。その一環として、外部有識者をサステナビリティ委員会、投資政策委員会、リスク管理委員会及びコンプライアンス委員会に招聘し、専門的知見の導入、専門性を活かしたチェック機能強化、意思決定の透明性を確保することで、ステークホルダーからの信頼醸成とガバナンスの強化を図るとともに、投資法人の持続的な成長につなげています。

特にサステナビリティ委員会では、社外アドバイザーの参加により、GHG排出削減やダイバーシティ等の推進において、その方向性や取組みの適正性の確認が可能になり、外部ステークホルダーの要請・意向を効果的に取り入れることができています。また、同委員会メンバーがグローバルな視点と最新動向を修得するほか、従業員へのフィードバックを通じて従業員へのリテラシー向上にも寄与しています。

サステナビリティ推進体制(日本プライムリアルティ投資法人第40期(2021年12月期)決算説明資料31ページ目より抜粋
https://www.jpr-reit.co.jp/file/ir_library_term-0c9c17a3b0c38744bec2cd0ceb0efbd377ba5b88.pdf(jpr-reit.co.jp)

審査員からの取組みに対するコメント

外部有識者を複数の委員会において招聘し、社外の専門的知見を導入すると共に、チェック機能の強化、意思決定に関する透明性の確保を追求する取組みであり、Jリートの運用に係るサステナブルガバナンスを考えるうえで示唆に富んだ取組みです。外部有識者を招聘するのは、一見簡単なように見えて、実はとても手間のかかる取組みであり、これを複数の委員会について実行している点が評価できます。サステナビリティの追求においては急速に変わりゆく情勢や異なるステークホルダーの意見を迅速に反映することが重要ですが、その観点からも非常に有効な施策だと思います。

環境部門
ベストレコメンド賞(他薦)
環境部門

オリックス不動産投資法人

TCFD提言に基づくシナリオ分析・開示

オリックス不動産投資法人(以下、本投資法人)の運用会社であるオリックス・アセットマネジメント株式会社では、気候変動が本投資法人に及ぼすリスクと機会の特定と、これらが将来的に戦略や計画に及ぼす影響について、分析をすすめています。具体的には、本投資法人の気候変動対策が、パリ協定に整合した低炭素経済への移行や、今後増加が見込まれる物理的リスクに対しどの程度レジリエンスであるか、TCFD提言に基づき複数シナリオ(1.5℃~2℃シナリオと4℃シナリオ)で定性・定量分析を実施、さらに、CRREMやCVaR等のツールによる検証及び、「2050年ネットゼロ」に向けた移行計画の策定をすすめています。また、ESG分野の専門の方々によるステークホルダーミーティングを開催し、かかる移行計画案の説明及び意見を収集しています。

開示についても、TCFDシナリオ分析の「気候変動による事業インパクト」や「リスクと機会の収益への影響算定結果」など開示情報が充実しており、かつコンパクトにまとめられています。

TCFDシナリオ分析結果(第2回)に基づく
「事業インパクト」(上)と
「1.5~2℃シナリオ」(下)(オリックス不動産投資法人第41期(2022年8月期)
決算説明資料より抜粋 
https://ssl4.eir-parts.net/doc/8954/ir_material_for_fiscal_ym/124744/00.pdf

審査員からの取組みに対するコメント

TCFDフレームワークを活用して環境価値の「見える化」を積極的に進めており、非常に精緻なTCFD分析をしています。その分析結果をふまえ、将来の不動産価値までつなげられそうな深い考察を加えており、本投資法人のポートフォリオを超えて、日本の不動産の在り方全体に深い示唆を提供している先進的な事例といえます。また、シナリオ分析に関して定性的な記載に留めず定量化による比較可能性を重視する姿勢や、ステークホルダーミーティングによる外部視点の導入などは、他社にも大いに参考になる好事例として評価できます。今は先進的と感じられる事例かもしれませんが、不動産業界の標準となる日も近いかもしれません。

社会部門
ベストレコメンド賞(他薦)
社会部門

星野リゾート・リート投資法人

サステナビリティファイナンスによる
調達

星野リゾート・リート投資法人では、ESGに配慮した投資及び資産運用を行い、投資法人の持続可能性を高めることによって投資主価値を最大化することが重要であるとの考えに基づき、サステナビリティファイナンス・フレームワークを制定し、環境改善効果および社会的便益を有する資金使途に限定した資金調達を行っています。

特に、施設を環境の観点のみでなく社会の観点から評価しており、サステナビリティページ上では、「ソーシャル適格クライテリア」として、「不動産利用者等関係者に係る取組み」と「地域社会に係る取組み」の2つに分け、「健康な暮らしと働き方」「地域の魅力と豊かな経済」等12個の社会課題及び社会課題の段階、アウトプット、アウトカム、インパクトを提示しており、資金の使途を限定しています。この「社会課題」及び「社会課題の段階」は「不動産分野の社会的課題に対応するESG投資促進検討会 中間とりまとめ」(国土交通省)に準拠しています。また、資金の使用について、インパクト・レポーティングとして、ソーシャル及びグリーンの適格クライテリアを満たす物件とそのアウトプット及びアウトカムが開示されています。

「地域における宿泊施設の役割と循環の考え方(概念図)」(上)と
「地域社会に係る取組みについてのソーシャル適格クライテリア」(下)(星野リゾート・リート投資法人HPより抜粋 
https://www.hoshinoresorts-reit.com/ja/sustainability/finance.html

審査員からの取組みに対するコメント

不動産投資分野における「S」の評価は、評価すべき論点も多く捉え方が難しいテーマですが、本投資法人ではその保有物件の特性をよく生かし、地域における宿泊施設の役割と循環の考え方を基軸に、社会・地域・人々と不動産の枠を超えて社会的インパクトを多様に検討しています。さらには、社会面でのクライテリアを設定した上で資金調達に結び付けており、社会的インパクトを再考する際の画期的な取組みです。他のJリートにおいても地域社会と密接につながっていることから大いに参考になる好事例と考えられます。

ガバナンス部門
ベストレコメンド賞(他薦)
ガバナンス部門

大和ハウスリート投資法人

サステナビリティ指標連動報酬の導入

大和ハウスリート投資法人では、2021年に資産運用会社に対する運用報酬につき、投資法人の保有物件のGHG排出量削減及び投資法人のサステナビリティの取組みに関する外部評価向上を促すことで投資主価値の向上を図ることを目的として、従前の資産連動、利益連動に加えて、サステナビリティ指標に連動して運用報酬の額を増減させる旨の規定をJリートで初めて追加しました。これにより、「GHG排出量削減量割合」、「GRESB評価」、「CDP評価」を指数化した倍率に総資産額を乗じることでサステナビリティ連動報酬を算出しており、ESG課題解決へのコミットメント強化及びガバナンスの向上を企図しています。

また、投資法人執行役員及び資産運用会社取締役の報酬についても、同様にGHG排出量削減量割合、GRESB評価及びCDP評価等に連動した報酬体系を採用しています。

サステナビリティ指標連動報酬の導入に関して(大和ハウスリート投資法人『J-REIT初となる「サステナビリティ指標連動報酬」の導入に関する補足説明資料』を資産運用会社にて一部更新・修正)

審査員からの取組みに対するコメント

資産運用会社に対する運用報酬をサステナビリティ指標に連動させるというJリート初の取組みであり、野心的と感じました。GHG排出量削減量割合やGRESB評価、CDP評価など指標も明確であり、インベストメントチェーンを通してESG投資を拡大・定着させるうえで効果的な取組みと考えられます。サステナビリティ戦略では、まずマネジメント層の強いイニシアティブが重視されますが、そのマネジメント層の決意が明確に示された好事例だと思います。サステナビリティ指標連動報酬の導入にあたっては、実際には多様な取組みを実行していく必要があると思いますので、その実行性にも期待しています。

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