2025年1月24日
2回目となる「ARES ESG AWARD 2024」には、昨年と同様、多数の応募をいただきました。昨年から今年にかけての新たな取組みによるエントリーも見られ、JリートにおけるESGに関する取組みが一層深化していることを感じました。
環境分野では、2023年9月に公開されたTNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)の最終提言の影響もあり、自然資本への関心の高さが伺えました。併せて実施した「JリートのESG取組調査2024」(下部PDFリンクご参照)においても、昨年度と比較して、生物多様性保全の取組みを進めるJリートが大幅に増加していることが明らかになりました。社会分野では、有価証券報告書におけるサステナビリティ情報開示の義務化に伴って人的資本への関心の高さが伺えました。ESG取組調査においても、多様な働き方を促進する取組みや、人材教育・研修の充実など、人的資本への投資を推進・強化しているJリートが多いことがわかりました。そしてガバナンス分野の取組みとして、ESGの個別のテーマに対する社会的要請に応じるだけでなく、それらの対応を、従業員はじめ、多様なステークホルダーを巻き込みながら推進していく動きも散見され、ESGに係る推進体制や社内浸透の強化が図られている点も印象的でした。
ARES ESG アワードは、これらの優れた取組みを共有し、他のJリートの皆様にも参考にしていただける貴重な場と考えています。今後も本アワードが、業界全体のESGに関する取組みの深化に貢献することを願っています。
ZEBとはネット・ゼロ・エネルギービルのことで、エネルギー消費量を基準より50%以上削減することで認証が与えられます。ジャパンリアルエステイト投資法人では、2030年までに既存オフィスビルにおいてZEB認証を5~10棟で取得することを目標に掲げ、既に4棟でZEB認証を取得しています。ZEB化にあたっては、照明のLED化に加え、現状の環境に合わせた空調容量を適正化(サイズダウン)する手法をとっています。既にZEB化した物件においては、空調容量が十分満足なものであり、テナントの快適性を損なっていないことや、効率的な運転が行われていることについて事後検証を実施しています。
一般的に新築より達成が困難とされる既存ビルのZEB化は、Jリート業界でも先進的な取組みであり、不動産業界として既存ストックの環境負荷低減が課題とされている中、脱炭素社会の実現に向けて有効な取組みとなっています。
我が国のエネルギー消費量の約3割を建築物分野が占めるため、2050年カーボンニュートラルの目標達成には、新築物件の環境性能向上と並んで既存ストックの改修が必要ですが、決して容易なものではありません。本取組みは、Jリートが関与することで既存ストックのZEB化に新たな資金の流れを創り出すものであり、先進的かつ大きなインパクトが期待されるものです。空調機のダウンサイジングでテナント快適性を損なわずに省エネ化を実現するノウハウがJリート業界内に蓄積されることへの期待も大きいです。
アクティビア・プロパティーズ投資法人では、保有するオフィスビルにおいて、サツマイモの芋葉による日陰効果と光合成の効果によって空調効率を上げる取組みをしています。空調室外機の間にサツマイモの苗を植えた布袋を設置し、サツマイモの葉による排熱の再吸い込み防止と日陰効果、蒸散作用を活用することで室外機周辺の気温を下げ、空調効率を上げています。
サツマイモは、外気温度や外壁の表面温度が高くなっても芋葉の温度が低く保たれることから、ヒートアイランド対策としても有効であることに加え、自動的に給水、給肥するシステムを構築し、栽培の手間はかかりません。当システムは2019年に特許を取得しており、真夏の昼のピーク時には10%程度の省エネ効果が期待されています。また、サツマイモの収穫を通じて、テナントとのコミュニケーション機会創出にもつながっています。
サツマイモの苗を用いて空調効率を上げるという発想は大変ユニークでありながら、地球温暖化、食糧難、生物多様性など、様々な環境課題に一つの提案を示している好事例といえます。大規模な改装工事等を必要とせず、既存の建物を活用しながら環境負荷を低減できる点も汎用性の観点から高く評価され、限られた予算の中で環境対策に取り組む多くのJリートにとって、非常に参考になる事例といえるでしょう。加えて、省エネ効果を数値化し公表している点、テナントとのコミュニケーション機会を提供している点など評価すべき点が多い取組みといえます。
ヒューリックリート投資法人の資産運用会社であるヒューリックリートマネジメント株式会社では、2021年度より「従業員表彰制度」を設け、ESG関連活動で優秀な取組みを行った従業員を表彰し、その取組みを全社で共有しています。過去3回の表彰において計8名が表彰されました。通常の人事評価制度に加えて表彰制度を導入することで、従業員のモチベーションを高めることが期待されます。また、優れた取組みを全社で共有することにより、ESGに関連する業務、資格取得やボランティア活動等への積極的な取組みを促しています。
従業員の自己啓発のための様々な取組みをサステナビリティと絡めて実践している点が素晴らしいと思います。ESGに取り組み、その効果を不動産運用を通じて投資家等ステークホルダーに提供しようとすれば、その担い手である資産運用会社の従業員が、それを自分事化できているかが大きな違いとなります。この「腹落ち感」は、研修等による知識の習得だけでは限界があり、やはり働き甲斐や達成感との組み合わせが重要です。本取組みは、この問題に正面から取り組み、人事評価に加えて従業員表彰制度を用いてサステナビリティ推進のための組織風土を醸成しようとしている点が画期的といえます。
ヘルスケア&メディカル投資法人の運用会社であるヘルスケアアセットマネジメント株式会社では、ESG推進の観点から、従業員向け研修等において、ESGに関する知識向上やESGマインドの醸成を企図して、研修項目・内容を充実化しています。具体的には各部署が、社会的に注目度が高いESGテーマ(利益相反管理、ハラスメント防止、DEI、人権、TCFD、建築物省エネ法、高齢社会、介護制度等)について、外部専門家等を招聘した勉強会や社外研修を企画・実施しています。加えて、ヘルスケアリートとして、医療介護制度についての社内勉強会も専門部署等が開催しています。各部署が主体的に研修会を企画することで、ESGマインドの醸成が図られ、業務レベルの向上にも繋がる取組みとなっています。
本投資法人の保有物件は全てが命を預かるヘルスケア施設であることから、その運用自体が社会課題解決に資する一方で、従業員のESGに関する知識やマインドが基盤として非常に重要です。それをよく理解した上で研修テーマを選ばれており、コンプライアンス面はもとより、DEI、人権、環境問題など多様なESG要素について従業員教育を進めることは、人的資本への投資そのものであり、これを組織立って進めている点がサステナビリティ・ガバナンスの好例として評価できます。
大和ハウスリート投資法人では、TNFD提言に基づき、LEAPアプローチに沿った分析・情報開示をしています。取得価格ベースで上位100物件(カバー率80.1%)について、自然関連依存度及び影響度の分析を実施し、リスク・機会を特定・評価したうえで、対応策を整理しています。そのうえで、生物多様性に関する認証取得目標等の定量指標・目標を設定し、進捗度をサステナビリティレポート、HPで開示しています。Jリート初となるTNFD adopterへの登録及びTNFD提言に沿った自然関連情報開示であり、今後も自然関連の積極的な情報開示を進めるとしています。
第6次環境基本計画において、全ての活動が自然資本に立脚していることが強調されるなど、自然資本に係るリスクと機会を経済活動に反映させる必要性が高まっています。本件は、こうした社会的要請を先取りする形でTNFD開示に積極的に取り組んでいます。非常に早い段階でのTNFD Adopter登録に加え、詳細な分析内容を開示しており、LEAPアプローチに沿って本投資法人の事業の自然資本への依存と影響を分析し、関連するリスクと機会を特定し評価するプロセスを明らかにしています。今後、TNFD開示に取り組もうとする他の投資法人の参考となりうる先駆的な取組みとして高く評価できます。
三井不動産ロジスティクスパーク投資法人では、MFLP厚木Ⅱに太陽光パネルを追加設置し、余剰電力を本投資法人が保有する別の2物件へ充当する電力託送スキームを構築しています。MFLP厚木Ⅱは太陽光パネルの追加設置を実施した結果ZEB認証を取得しました。なお、稼働物件でのパネル設置工事は、開発時の設置に比べてテナントとの調整を含めた現場難易度は高いものの、物件単体でのグリーン性能を高めることが可能になり、更に電力託送スキームによって、ポートフォリオ全体のグリーンエネルギー化を進め、温室効果ガス排出量削減を図ることが可能となります。
投資物件単独への太陽光発電設備の設置は一般的ですが、余剰電力をポートフォリオ内の別物件に託送するスキームを導入することにより、ポートフォリオ全体の脱炭素化も進めている点で画期的な取組みといえます。既存物件の発電容量を増強して単体としてのグリーン性能を一層高めるとともに、一種のVPP(バーチャルパワープラント)機能により既存ストックを活かした新たなグリーン化の動きといえます。他の投資法人にも参考にしていただくことで、新たな付加価値の循環が創出されることを期待します。
野村不動産マスターファンド投資法人の資産運用会社である野村不動産投資顧問株式会社では、サステナビリティを自分事として捉えられるように全社員を巻き込んだ議論を重ね、「なぜサステナビリティに取り組むか」に対する内発的な考え方を打ち出しています。その上で、全社員がサステナビリティへの取組みを自分事として理解し行動につなげられるようにすることを念頭に、社員を第一のステークホルダーとして捉えた、新たなサステナビリティ方針を策定しました。
非常に先進的かつ野心的な取組みです。資産運用会社において、全役職員を巻き込んだ議論を通じてサステナビリティに取り組むコンセンサスを形成しており、文字通り「王道を往く」対応事例といえます。また、新たに策定したサステナビリティ方針を基盤として、投資法人においては、不動産運用を通じた社会課題解決という幅広いスコープを捉えた上でマテリアリティとKPIの設定に至っている点がサステナブル経営の本質を突いており、今後の取組みがどのように展開されていくか大変期待されます。
オリックス不動産投資法人の資産運用会社であるオリックス・アセットマネジメント株式会社では、ESGに関する取組みに対して経営陣や外部有識者を交えたステークホルダーミーティングを実施し、内容をサステナビリティレポートにおいて開示しています。特にオリックス不動産投資法人の社会的インパクトに関しては、特集ページを組み、複数の有識者を含めたステークホルダーミーティングの内容を詳細に開示しています。本投資法人の取組みに対し、経営陣及び外部有識者がどのように考えているのかについて理解が深まるコンテンツであり、先進的な開示内容となっています。
サステナビリティ・ガバナンスに真摯に取り組んでいる姿勢が伝わる好例です。経営層がサステナビリティ課題に対する認識や戦略等を自分の言葉で語っておられる様子が伝わってきますし、サステナビリティ課題に対して、自己完結型で慢心するのではなく、常に自分たちをアップデートしておこうという経営陣のポジティブな方針があってこその取組みといえます。今後も様々な対話の中から、Jリート業界を牽引するような先進的な取組みを続けていただきたいです。対話内容を社内にも周知し、意思統一を図っている点も他の投資法人が参考にできるポイントといえます。
審査員のコメント
ESG投資の主流化は、Jリート業界にも波及し、着実に定着しつつあります。「JリートのESG取組調査2024」(下部PDFリンクご参照)の結果をみても、ESGに関する体制整備及び開示の要請が年々多様化する中、いち早く対応されている印象を受けると共に、もはや環境方針の策定や再生エネルギーの活用は当然の前提となり、新たなテーマである自然資本や様々な社会的側面への対応が一段と進化していることが分かります。
ARES ESG アワードは、情報交換を通じて切磋琢磨する雰囲気が醸成されている本業界における、そうした取組みが一堂に会する場です。今回も数多くの魅力的な取組みがエントリーされました。これまで難しいとされた既存物件の改良や従業員の意識改革など、果敢に取組まれた内容の充実・深化には目を見張るものがあります。
今後は、インパクト投資を後押しする動きが加速している世の中の流れをふまえ、それぞれのポートフォリオの特性を生かした取組みや、その取組みから生まれるインパクトの可視化を通じて、不動産の価値向上により一層努めていただきたいと思います。本アワードが業界のレベルアップに引き続き貢献することを祈念します。